外部刺激応答性光機能を兼ね備えた「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の開発

武田 洋平
(大阪大学 大学院工学研究科 准教授)

2016年6月23日木曜日

研究成果が論文に掲載されました。

みなさま、こんにちわ。
蒸し蒸しする日が続き、いよいよ本格的な梅雨の時期の到来ですね。

さて、先日に引き続き、研究成果が論文に掲載されましたので、僭越ながら宣伝させていただきます。まずは、以下が論文の情報になります(まだページ番号はついておりませんが、オープンアクセスですので、どなたでも無料で読めます)。京都大学福井謙一記念研究センターの諸熊圭治先生・Sameera博士研究員との共同研究です。

"Palladium-catalyzed regioselective and stereo-invertive ring-opening borylation of 2-arylaziridines with bis(pinacolato)diboron: experimental and computational studies"

Youhei Takeda*, Akinobu Kuroda, W. M. C. Sameera, Keiji Morokuma*, Satoshi Minakata*

Chem. Sci.Advanced Article DOI:10.1039/C6SC01120A 
 
 タイトルにある”アジリジン(aziridine)”というのは、窒素原子で炭素-炭素単結合を架橋した3員環構造を有する有機化合物群です。通常、メタン(CH4)のような飽和炭素化合物は、正四面体構造(結合角 H–C–H = 109.5˚)が最も安定ですが、アジリジンのように無理やり環構造にしてやる(結合角 C–N–C ~ 60 ˚)ことで、”環歪み”と呼ばれるエネルギーを化合物そのものに溜め込みます。従って、”求核剤(E–Hとしましょう:Eは様々な元素)”と呼ばれる電子密度が豊富な分子が環に近づいてくると、3員環を開いて環歪みを解消することを駆動力とすることで、C–N結合の解裂を伴い、新たなC–E結合(Eは様々な元素)が形成します。この際、反応する炭素中心では、風の強い日に傘が反転するように、立体反転がおきるのが特徴です(SN2反応)。アジリジンの求核剤による開環反応は、生成物として生理活性物質において重要なモチーフである飽和アミノ化合物を生成物として与えるため、シンプルかつ極めて重要な反応です。従って、これまで多様な求核剤を用いたアジリジンの開環反応が研究されてきました。

 これに対して、遷移金属錯体を一種の求核剤として活用(酸化的付加)し、そこから生じる有機金属錯体を触媒サイクルに組み込むことで、C–E結合を形成させる反応はあまり研究が進んでいませんでした。このような背景のもと、我々は、2014年に世界に先駆けてPd触媒を用いるアジリジンのSN2型のクロスカップリング反応(炭素-炭素結合形成)の開発に成功しました("Pd/NHC-Catalyzed Enantiospecific and Regioselective Suzuki-Miyaura Arylation of 2-Arylaziridines: Synthesis of Enantioenriched 2-Arylphenethylamine Derivatives" Youhei Takeda*, Yuki Ikeda, Akinobu Kuroda, Shino Tanaka, and Satoshi Minakata* J. Am. Chem. Soc. 2014136, 8544–8547. DOI: 10.1021/ja5039616)。

 この反応を炭素ーホウ素結合形成クロスカップリングへと展開したのが、今回の成果です。今回開発した反応において、興味深い特徴としては、i)以前報告したクロスカップリングと比較して、解裂するC–N結合の位置が逆である(位置選択性の触媒による制御)・ii)通常アルキル求電子剤のホウ素(ボリル)化の際に必要なホウ素化合物の活性化剤の外部添加が不要(実は、この役割は水が担っていました)・iii) 立体反転を伴う(SN2型)、といったところです。
 少しマニアックなお話だったかとは思いますが、ご興味持たれた方は、オープンアクセス(どなたでも無料で読めます)ですので、ぜひともご一読いただければと思います。

 本日は、このあたりで 失礼します。



2016年6月18日土曜日

ワークショップにて講演しました。

今週は、先日紹介させていただいた熱活性化遅延蛍光(TADF)材料開発に関する国際共同研究先である英国ダラム大学を訪問しております。我々のグループは、新規有機合成反応の開発を基軸とした新規遅延蛍光分子の創成・基礎物性調査を担当しており、当英国の光物理チームでは、我々の開発した分子の動的光物理過程の解析や有機ELデバイスの作製・物性評価を担当しています。オリジナルな反応でオリジナルな機能分子を作り、そしてそれらの光物理過程をナノ秒スケールで追いかける、という感じです。とても一つのチームではできないことですので、国際共同研究の意義は、それぞれが得意とする分野を持ち合わせて、”より良いものを作り・より深く理解する”という点にあるかと思います。
今回は、研究打ち合わせに加えて、当該チームがワークショップを主催するということで、参加・研究成果発表させていただきました(写真は、会場のダラム大学物理科の前にて撮影)。



 今回がキックオフとなるワークショップは、その名も"Maximizing the RISC”(https://risc-tadf.net/about/" RISCとはreverse intersystem crossing(逆項間交差、項間交差については、以下参照:http://www.chem.eng.osakau.ac.jp/~komaken/pablication/img/img50.pdf)の略で、”RISK(リスク)”とかけているそうです。RISCを最大効率化すれば、遅延蛍光の効率の向上が見込めるわけですが、”そもそもリスク(RISK)に手を出さなければ、そういった成功はあり得ない”という意味を込めて、この名をつけたそうです。本ワークショップの特徴としては、異分野融合があげられます。実際、講演者、参加者の専門をみてみると、化学、物理を専門とする研究者の割合はおよそ半々といった割合です。互いに専門分野の枠を超えて理解しあおうとする本ワークショップのスタイルは、自分自身にとっても大変勉強になるとともに、今後の国際共同研究の発展にも繋がる点で、非常に意義深いと思いました。お互いにとって損になることは全くないですからね。

ダラムは今回で2回目の訪問ですが、スコットランドに近い北部の歴史ある街です(ダラムについては、以下参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/ダラム)。落ち着いていて、個人的には好きな街です。写真は、約900年の歴史があり、世界遺産にも指定されているダラム城の一部ですが、今はダラム大学の学生寮になっているそうです。夏の休暇期間中には、ホテルとして一般客にも公開されているそうですよ。こんなところで学生生活できるなんて、まるでハリーポッターの世界ですね。