外部刺激応答性光機能を兼ね備えた「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の開発

武田 洋平
(大阪大学 大学院工学研究科 准教授)

2016年5月24日火曜日

研究成果が論文に掲載されました。

皆様,お久しぶりです。
だんだん暑くなってまいりましたね。これから蒸し蒸しのするかと思うと嫌になってきちゃいます。

 ところで,せっかく研究ブログをしているので,前回に引き続き,研究成果の宣伝をさせていただきたく思います。新しい論文がでました。まだ先日オンラインでpublishされたてのホヤホヤです。

”Thieno[3,4-c]phosphole-4,6-dione: A Versatile Building Block for Phosphorus-containing Functional π-Conjugated Systems”

Takeda, Y.*; Hatanaka, K.; Nishida, T.; Minakata, S.*
Chem. Eur. J.  Accepted Article, doi: 10.1002/chem.201602392

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201602392/full

実は,色々と審査の段階であったのですが,今日はそれには触れずに,内容を簡単に解説させてください。前回のブログでは,遅延蛍光なるものに触れましたが,今回の研究はまた別ものですが,機能性分子のお話です。ただし,ただの機能性分子ではございません。リン元素を機能発現の鍵元素とする分子です。

”リン?”なんだそりゃ,というのがこのブログをお読みの方の多くの感想かもしれません。身近なものでいえば,骨とかに含まれるリン酸カルシウムであったり,農薬であったりかもしれませんね。一時期,騒がれたサリンなどもリンを含む有機分子ですので,あまりいいイメージがないかもしれません。

実は,リン(元素記号:P)というのは元素の一つで,こちらはよく耳にする機会があるかもしれませんが,アンモニアに含まれることでも有名な”窒素(元素記号:N)”元素と同族元素で周期が一つ下の元素です(要は仲間の元素です)。これらNとP,似ている様で似ていないんです。より軽元素である窒素原子は専門的に言うと三配位の三角錐型の構造をとりやすいのに対して,より重元素であるリン原子は窒素同様三配位,三角錐構造をとることができるのに加えて,四配位ピラミッド構造や,五配位三方両錐型の構造など多様な原子価および構造をとることができる点で大きく異なります。これは,窒素原子を含む化合物を単に同族であるリン原子で置き換えただけでも,構造的にも電子的にも大きく特性が変わってくることを意味します。

このような観点から,リン元素を炭素元素ベースの機能性分子に放り込む(組み込むとでもいいましょうか”ことで,機能の付加価値をつけようというのが,最近の一つの研究の潮流です。ちなみにこれは,リンに限ったことではなく,日本では昔からお家芸的に盛んに行われてきた研究分野の一つで,”有機典型元素化学”という言葉もあるくらいです(ちなみに,海外では”炭素と水素”以外の元素をメインで含む分子は”無機化学”扱いされるそうです)。

さて,話がだいぶそれましたが,今回の研究成果としては,先ほどから話題に上がっている窒素元素を含む有機電子受容性分子の窒素原子をリン原子で置き換えましたよ,という程度に思っていただければ結構です。ただそれだけですが,大きな差が出たというのが結論でしょうか。光学特性が変化するのはもちろん,構造的にも当然大きく異なってきます。また,これまで報告されていない構造であることから,今後リン元素を含む機能性材料分子の合成素子(レゴでいう基本となるブロックみたいなものです)になればよいなぁと思い,研究を進めてきました。修士過程でこの春に卒業した畑中君という学生さんの頑張りによりこの成果をまとめることができました。彼は非常に頑張り屋さんで,ディスカッションで無理難題も言ったと思いますが,それに答えようとしてくれたことには本当に感謝です。
 さて,今回の研究で個人的に最も面白いと思ったところは,開発した合成素子を用いて,リン元素を含むローバンドギャップ高分子の創成に成功した点です。ローバンドギャップ高分子というのは,可視光を広い範囲に渡って吸収するが故に,見た目は黒っぽい色をしています。太陽電池材料とか近赤外発光材料などへの応用が期待できます。リンは先ほども述べましたが,様々な配位数や酸化数がとれます。これは,リン元素を含む可視光領域に吸収のある高分子を合成できれば,高分子中のリン原子のみを化学的に修飾することで,構造的・電子的な変化をもたらすことで何が起きるでしょう?今回の実験では金錯体を少量ずつ添加することで,相性の良い金錯体中心へリン原子が配位することで,バンドギャップを調整することに成功しました。これまで,電気化学的にリン原子含有高分子を合成し,それを化学修飾して光・電子特性を変化させた例はわずかですが先例がありましたが,今回のように化学合成でしっかり構造を作り込んだ例は希少であり,今後,リン含有機能性高分子のデザインにおいて新しい風を吹き込めたらなぁと勝手に期待しております。
 駄文を長々と最後まで読んでいただき,誠にありがとうございました。また今後の展開に乞うご期待ください!



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