外部刺激応答性光機能を兼ね備えた「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の開発

武田 洋平
(大阪大学 大学院工学研究科 准教授)

2016年5月7日土曜日

研究成果が科学新聞に掲載されました.

GWもあっと言う間に過ぎ去ろうとしていますね.世間はまだ休暇中の方もおられるかと思いますが,大学は授業もあるので昨日から平常運転(といっても一日だけ)です.私事ですが,GWは研究室のBBQと家族旅行で気分がリフレッシュされ,再び研究に向かい合う準備ができました.

 ということで,本ブログは研究ブログですので,研究のお話を少し書き綴っていきたいと思います(あくまで一般の方を読者として想定としたブログですので,なるべく平易な言葉で書かせていただきます.玄人の方は,どうぞご了承ください...).

 私の研究分野は,広い意味での有機化学です.”有機化学”という言葉は,中学,高校の化学の授業でも出てくるので,ご存知の方も多いかもしれません.基本的には炭素と水素原子から成る分子(有機分子)を扱う学問です.我々の体を含め,食べ物,薬など身の回りは有機分子で溢れかえっています.大学の研究室で進められている有機化学研究は,有機分子のどのような点に興味を抱くかによって,微妙に細分化(あくまで形式の問題ですが)されているのが現状です.例えば,有機分子を”どのように作るか(有機合成化学)”,有機分子が”どのような構造をしているか(構造有機化学)”,はたまた”どのような機能を有しているか(機能有機化学)”,などです.しかし,最近の傾向としてはこれら一度細分化されていた研究領域のボーダーを越えていく(そもそもボーダーなどないはずですが)研究が増加している気がします.個人的には,まさにボーダーレスな有機化学を意識して面白い反応や機能性分子を創り出していけたらなぁという気持ちで日々研究をしています.

 さて,結局を何をしてるんだというのが伝わらなかったかもしれませんので,ここで最近論文に掲載され,本研究助成で採択された課題にも深く関連のある研究例をご紹介いたします.

 最近,有機エレクトロルミネッセンス(EL)という言葉を聞かれた方も多いのではないでしょうか?簡単に説明しますと,電気を有機物に流すと光る(エレクトロ=電気,ルミネッセンス=発光)という原理ですね.有機化合物から成る有機材料は,無機化合物から成る無機材料に比べて「軽量性・柔軟性・コスト面」において有利な点が多いことからその開発研究は世界中で盛んにおこなわれています.特に,有機EL発光材料は次世代ディスプレイや照明など多様な応用が考えられ,産業的にも注目されています.さて,その有機EL素子を構成する上で要となるのが,発光材料ですが,従来の蛍光材料(ナノ秒オーダーという短い発光寿命をもつ)を用いた場合,電気エネルギーのうち5%程度しか光として取り出せないというのが一般常識だったのですが,2012年に九州大学の安達千波矢教授らによって開発された熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)材料(マイクロ〜ミリ秒オーダーという比較的長い発光寿命をもつ)を利用すると,従来の限界値である5%を凌駕できるということが明らかにされて以来,次世代の発光材料として爆発的に世界中で研究が進められています.しかし,TADF発現機構の解明・分子設計指針の確立・低エネルギー発光(より長波長側)を示すTADF材料の開発などまだまだ解決すべき課題はたくさんあります.

 こういった背景のもと,最近私達はイギリスのダラム大学物理学科の研究者らと国際共同研究チームを組んで,化学と物理の融合研究により,これまでに報告されていない機構に基づくTADF材料の開発に成功しました(論文へのリンク).

"Dibenzo[a,j]phenazine-Cored Donor-Acceptor-Donor Compounds as Green-to-Red/NIR Thermally Activated Delayed Fluorescence Organic Light Emitters"
Przemyslaw Data*, Piotr Pander, Masato Okazaki, Youhei Takeda*, Satoshi Minakata, and Andrew P. Monkman
Angew. Chem., Int. Ed. 201655, 5739–5744 (DOI:10.1002/anie.201600113 )

本研究では,U字型に屈曲したドナー・アクセプター・ドナー型の分子構造がTADF機能の発現に重要な役割を果たしていますが,鍵となるU字型分子は2014年に私達が発見した新反応(骨格転位反応)を活用することで初めて構築可能である点で,反応開発が材料開発に繋がった好例ではないでしょうか.もう少し詳細について知りたい方は,以下の阪大のプレスリリースのリンク等をご参照いただければ幸いです.本研究結果は4/29付の科学新聞にも掲載いただきました.もちろん,本ブログ上でのお問い合わせもウェルカムです.

 こういった背景のもと,本研究助成課題では,TADFを示す分子をさらに高付加価値化しようというのが目的です.具体的には,こする,加熱する,溶媒蒸気に晒すなどの外部刺激に応答して発光色が変化するという機能を付与したいと考えています.こういった機能が付与されれば,建物の劣化具合を一目で見てわかる材料や,熱センサーなどへの応用も考えられます.こちらの研究結果については後日公開できるよう今後研究に励んでいきたい所存です.

RESOU

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