外部刺激応答性光機能を兼ね備えた「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の開発

武田 洋平
(大阪大学 大学院工学研究科 准教授)

2016年9月13日火曜日

やさしい科学技術セミナー

 先日、やさしい科学技術セミナーを開催させていただきましたので、簡単なご報告を。

 今回のセミナー、川西高校と宝塚北高校の生徒さん28名に大阪大学工学部へお越しいただき、座学75分+実験2.5時間を体験していただきました。
 
 タイトルは、「いろいろな刺激で光を色鮮やかに変化させる有機分子の世界 〜未来の光材料デザイナーたちへ〜」。正直格好つけすぎました。。。しかし、あくまで今回のセミナーを開催するにあたっての個人的な目標は、今後将来を担う高校生が夢を持つきっかけにしてもらうことだったので、敢えて周りの目は気にせず、このようなタイトルにさせていただきました。

 
 座学の部では、身の回りにある発光体の簡単な原理から応用例、そして今後どういった方向へ発展しうるのか、そのあたりを中心にお話させていただきました。75分というと、大学の授業1コマ(90分)近くですが、多くの生徒さんがメモなどをしっかりとり、聞き入ってくれていたのは非常に印象的でした。なかでも、今回の目玉実験の一つでもあった「サソリの青色蛍光分子を自分の手で作ろう」という話題に会場全体が食いついていただけたことは、準備した甲斐があったというものです。実は、サソリの甲殻には、ある蛍光分子が含まれており、ブラックライトで照らすと、青〜緑色に発光するのです。今回セミナーを手伝ってくれた大学院生のお兄さん達も知らなかったような、身近な科学トリビアです。そして、幸いにもこの蛍光分子、簡単に手に入る薬品を混ぜて、魔法の粉(触媒)を振りかけ、加熱するだけでできてしまうのです!しかも、その蛍光分子は、pHに応答して発光挙動(色や強度)が大きく変化するのです。有機合成化学実験と発光物質の観察を同時にできてしまうこんな美味しい題材があるものか、と最初に文献を見つけた時は感動したものです。
 
 話を戻しますと、今回参加してもらいました生徒さんの目の輝きは特別でした。引率された先生にお話を聞きましたところ、高校では当然有機合成実験などしたことないし、外部刺激で発光色が変化するようなものも扱ったこともない、とのことでしたので、当初の目的のように、有機化学や光科学に興味を抱いてもらえるきっかけになったのではないかな、と感じました。

 
 本セミナーを開催するにあたって、当初、有機合成実験を一度も経験したことのない生徒さん数十名が一度に実験することに若干不安は感じていました。しかし、安全性を第一に考慮した実験項を何度も試行錯誤練り直したことと、丁寧かつ分かり易い説明をしてくれた大学院生のTAさんのお陰で、全てのグループが無事サソリの蛍光物質の合成に成功しました。

 本セミナーでは、他にも、「擦ったり、溶媒蒸気に晒す」と発光色が変化する物質を使った観察実験も実施しております。本ブログをお読みになって、本セミナー内容にご興味を持たれた方はぜひ、youtubeで公開されています動画を視聴してみてください。

動画「いろいろな刺激で光を色鮮やかに変化させる有機分子の世界 〜未来の光材料デザイナーたちへ〜(youtube)」https://www.youtube.com/watch?v=qaCmkyreMn4&feature=youtu.be

 最後になりましたが、本セミナーを開催するにあたって、国際科学技術財団広報の小倉様には準備段階から色々とご助言賜りました。この場を借りて再度、御礼申し上げます。




2016年8月25日木曜日

環をちぎって、繋げて。

皆様こんちにわ。

いつの間にか、8月も後半に突入してしましたね。

個人的な話で恐縮ですが、お盆休みはしっかり家族サービスできた(と思っているだけかも。。。)ので、また気持ちを入れ替えて仕事に追われている日々です。

さて、少し前の話になりますが、論文が掲載されましたので、少しだけ宣伝を。

アミノ基をチオフェン環に二つ有する化合物に、超原子価ヨウ素(III)と呼ばれるヨウ素を鍵元素として含む酸化剤を作用させると、チオフェン環(これらは、ベンゼンに代表される芳香環の一種であり、通常エネルギー的に安定化を受けています)の強固な炭素ー硫黄結合、および炭素ー炭素結合が形式上切断され、自己縮合して生成したと考えられる新規なヘテロ芳香族化合物(アミノ基を有するチエノピラジン類)を与えることを見つけました。
この反応条件が使える有機化合物(基質といいいます)が大きく制限を受けてしまうのが、たまに傷ですが、チエノピラジン骨格自体は、医薬品、薄膜太陽電池の高分子材料や赤色発光材料に含まれる機能性有機分子の基本骨格を成すことから、今回の反応開発は、新たな機能性材料の探索・創出に繋がる可能性を秘めています。
実際、今回合成した化合物は、希薄溶液中ではオレンジ色に、固体状態では赤色に発光することがわかっており、それらの基礎的物性も本論文では報告しています。

マニアックな反応ですが、まだ反応機構もよくわかっていないので、パズル好きな方はぜひ、ご一読されて妙案をいただければ、と思います。

Youhei Takeda*, Satoshi Ueta, Satoshi Minakata,* Heterocycles, in press 
(doi: 10.3987/COM-16-S(S)11)
https://www.heterocycles.jp/newlibrary/payments/form/24813/PDF





2016年7月22日金曜日

突然ですが、、、

オーストラリアのメルボルンに滞在しています。

国際学会にて、以前のブログでも紹介させていただきました、アジリジン(炭素、水素、窒素原子から成る三角形分子)の触媒的開環的ボリル化反応(http://blog2016takeda.japanprize.jp/2016/06/blog-post_23.html)について研究成果発表させていただきました。



実は、今回オーストラリアはもとより、生まれてこのかた地球の南半球に来るのが初めてだということに気づきました(!)。

日本とは時差は(+)1時間だけですが、季節は真冬というのは、頭でわかっていても、いやはや実に不思議なものです。癖のあるオーストラリア英語にまどいつつも、なんとか学会は乗り切りました。寒さも思ったほど厳しくなく、治安も良さそう、かつアジア料理が至るところで食べれるという点では、確かに世界で最も住みやすい都市に選ばれる(http://edition.cnn.com/2015/08/17/travel/most-liveable-city-2015/)だけのことはあるな、と実感いたしました(正直、訪問するまでは眉ツバだろうと思っていました。。。)。

写真は、学会とは関係ないですが、モーンングティー(さすが、英国圏)と一緒に食したマフィンです。フワッフワで、とても美味しかったです。



また真夏に逆戻りになるので、夏バテにならないかだけが目下の心配事です。

2016年7月7日木曜日

8/9(火)阪大工学部オープンキャンパス開催します。

本日は阪大工学部のオープンキャンパスの宣伝を宣伝させていただきます。

8月9日(火)にオープンキャンパスを開催します。詳細は以下のリンクから見ていただきたいですが、私が所属する研究室も今年はオープンキャンパスにて一般公開されますので、ご興味を持たれた方は是非とも、奮ってお申込みください。
ちなみに私が所属する研究室は、応用自然科学科です。一般受付の後、応用自然科学科の受付へお越しください。
http://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/entrance/opencampus.html

今年の夏はかなり暑いようですので、熱中症対策を十分にされてお越しください。お待ちしております。

2016年6月23日木曜日

研究成果が論文に掲載されました。

みなさま、こんにちわ。
蒸し蒸しする日が続き、いよいよ本格的な梅雨の時期の到来ですね。

さて、先日に引き続き、研究成果が論文に掲載されましたので、僭越ながら宣伝させていただきます。まずは、以下が論文の情報になります(まだページ番号はついておりませんが、オープンアクセスですので、どなたでも無料で読めます)。京都大学福井謙一記念研究センターの諸熊圭治先生・Sameera博士研究員との共同研究です。

"Palladium-catalyzed regioselective and stereo-invertive ring-opening borylation of 2-arylaziridines with bis(pinacolato)diboron: experimental and computational studies"

Youhei Takeda*, Akinobu Kuroda, W. M. C. Sameera, Keiji Morokuma*, Satoshi Minakata*

Chem. Sci.Advanced Article DOI:10.1039/C6SC01120A 
 
 タイトルにある”アジリジン(aziridine)”というのは、窒素原子で炭素-炭素単結合を架橋した3員環構造を有する有機化合物群です。通常、メタン(CH4)のような飽和炭素化合物は、正四面体構造(結合角 H–C–H = 109.5˚)が最も安定ですが、アジリジンのように無理やり環構造にしてやる(結合角 C–N–C ~ 60 ˚)ことで、”環歪み”と呼ばれるエネルギーを化合物そのものに溜め込みます。従って、”求核剤(E–Hとしましょう:Eは様々な元素)”と呼ばれる電子密度が豊富な分子が環に近づいてくると、3員環を開いて環歪みを解消することを駆動力とすることで、C–N結合の解裂を伴い、新たなC–E結合(Eは様々な元素)が形成します。この際、反応する炭素中心では、風の強い日に傘が反転するように、立体反転がおきるのが特徴です(SN2反応)。アジリジンの求核剤による開環反応は、生成物として生理活性物質において重要なモチーフである飽和アミノ化合物を生成物として与えるため、シンプルかつ極めて重要な反応です。従って、これまで多様な求核剤を用いたアジリジンの開環反応が研究されてきました。

 これに対して、遷移金属錯体を一種の求核剤として活用(酸化的付加)し、そこから生じる有機金属錯体を触媒サイクルに組み込むことで、C–E結合を形成させる反応はあまり研究が進んでいませんでした。このような背景のもと、我々は、2014年に世界に先駆けてPd触媒を用いるアジリジンのSN2型のクロスカップリング反応(炭素-炭素結合形成)の開発に成功しました("Pd/NHC-Catalyzed Enantiospecific and Regioselective Suzuki-Miyaura Arylation of 2-Arylaziridines: Synthesis of Enantioenriched 2-Arylphenethylamine Derivatives" Youhei Takeda*, Yuki Ikeda, Akinobu Kuroda, Shino Tanaka, and Satoshi Minakata* J. Am. Chem. Soc. 2014136, 8544–8547. DOI: 10.1021/ja5039616)。

 この反応を炭素ーホウ素結合形成クロスカップリングへと展開したのが、今回の成果です。今回開発した反応において、興味深い特徴としては、i)以前報告したクロスカップリングと比較して、解裂するC–N結合の位置が逆である(位置選択性の触媒による制御)・ii)通常アルキル求電子剤のホウ素(ボリル)化の際に必要なホウ素化合物の活性化剤の外部添加が不要(実は、この役割は水が担っていました)・iii) 立体反転を伴う(SN2型)、といったところです。
 少しマニアックなお話だったかとは思いますが、ご興味持たれた方は、オープンアクセス(どなたでも無料で読めます)ですので、ぜひともご一読いただければと思います。

 本日は、このあたりで 失礼します。



2016年6月18日土曜日

ワークショップにて講演しました。

今週は、先日紹介させていただいた熱活性化遅延蛍光(TADF)材料開発に関する国際共同研究先である英国ダラム大学を訪問しております。我々のグループは、新規有機合成反応の開発を基軸とした新規遅延蛍光分子の創成・基礎物性調査を担当しており、当英国の光物理チームでは、我々の開発した分子の動的光物理過程の解析や有機ELデバイスの作製・物性評価を担当しています。オリジナルな反応でオリジナルな機能分子を作り、そしてそれらの光物理過程をナノ秒スケールで追いかける、という感じです。とても一つのチームではできないことですので、国際共同研究の意義は、それぞれが得意とする分野を持ち合わせて、”より良いものを作り・より深く理解する”という点にあるかと思います。
今回は、研究打ち合わせに加えて、当該チームがワークショップを主催するということで、参加・研究成果発表させていただきました(写真は、会場のダラム大学物理科の前にて撮影)。



 今回がキックオフとなるワークショップは、その名も"Maximizing the RISC”(https://risc-tadf.net/about/" RISCとはreverse intersystem crossing(逆項間交差、項間交差については、以下参照:http://www.chem.eng.osakau.ac.jp/~komaken/pablication/img/img50.pdf)の略で、”RISK(リスク)”とかけているそうです。RISCを最大効率化すれば、遅延蛍光の効率の向上が見込めるわけですが、”そもそもリスク(RISK)に手を出さなければ、そういった成功はあり得ない”という意味を込めて、この名をつけたそうです。本ワークショップの特徴としては、異分野融合があげられます。実際、講演者、参加者の専門をみてみると、化学、物理を専門とする研究者の割合はおよそ半々といった割合です。互いに専門分野の枠を超えて理解しあおうとする本ワークショップのスタイルは、自分自身にとっても大変勉強になるとともに、今後の国際共同研究の発展にも繋がる点で、非常に意義深いと思いました。お互いにとって損になることは全くないですからね。

ダラムは今回で2回目の訪問ですが、スコットランドに近い北部の歴史ある街です(ダラムについては、以下参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/ダラム)。落ち着いていて、個人的には好きな街です。写真は、約900年の歴史があり、世界遺産にも指定されているダラム城の一部ですが、今はダラム大学の学生寮になっているそうです。夏の休暇期間中には、ホテルとして一般客にも公開されているそうですよ。こんなところで学生生活できるなんて、まるでハリーポッターの世界ですね。







2016年5月24日火曜日

研究成果が論文に掲載されました。

皆様,お久しぶりです。
だんだん暑くなってまいりましたね。これから蒸し蒸しのするかと思うと嫌になってきちゃいます。

 ところで,せっかく研究ブログをしているので,前回に引き続き,研究成果の宣伝をさせていただきたく思います。新しい論文がでました。まだ先日オンラインでpublishされたてのホヤホヤです。

”Thieno[3,4-c]phosphole-4,6-dione: A Versatile Building Block for Phosphorus-containing Functional π-Conjugated Systems”

Takeda, Y.*; Hatanaka, K.; Nishida, T.; Minakata, S.*
Chem. Eur. J.  Accepted Article, doi: 10.1002/chem.201602392

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201602392/full

実は,色々と審査の段階であったのですが,今日はそれには触れずに,内容を簡単に解説させてください。前回のブログでは,遅延蛍光なるものに触れましたが,今回の研究はまた別ものですが,機能性分子のお話です。ただし,ただの機能性分子ではございません。リン元素を機能発現の鍵元素とする分子です。

”リン?”なんだそりゃ,というのがこのブログをお読みの方の多くの感想かもしれません。身近なものでいえば,骨とかに含まれるリン酸カルシウムであったり,農薬であったりかもしれませんね。一時期,騒がれたサリンなどもリンを含む有機分子ですので,あまりいいイメージがないかもしれません。

実は,リン(元素記号:P)というのは元素の一つで,こちらはよく耳にする機会があるかもしれませんが,アンモニアに含まれることでも有名な”窒素(元素記号:N)”元素と同族元素で周期が一つ下の元素です(要は仲間の元素です)。これらNとP,似ている様で似ていないんです。より軽元素である窒素原子は専門的に言うと三配位の三角錐型の構造をとりやすいのに対して,より重元素であるリン原子は窒素同様三配位,三角錐構造をとることができるのに加えて,四配位ピラミッド構造や,五配位三方両錐型の構造など多様な原子価および構造をとることができる点で大きく異なります。これは,窒素原子を含む化合物を単に同族であるリン原子で置き換えただけでも,構造的にも電子的にも大きく特性が変わってくることを意味します。

このような観点から,リン元素を炭素元素ベースの機能性分子に放り込む(組み込むとでもいいましょうか”ことで,機能の付加価値をつけようというのが,最近の一つの研究の潮流です。ちなみにこれは,リンに限ったことではなく,日本では昔からお家芸的に盛んに行われてきた研究分野の一つで,”有機典型元素化学”という言葉もあるくらいです(ちなみに,海外では”炭素と水素”以外の元素をメインで含む分子は”無機化学”扱いされるそうです)。

さて,話がだいぶそれましたが,今回の研究成果としては,先ほどから話題に上がっている窒素元素を含む有機電子受容性分子の窒素原子をリン原子で置き換えましたよ,という程度に思っていただければ結構です。ただそれだけですが,大きな差が出たというのが結論でしょうか。光学特性が変化するのはもちろん,構造的にも当然大きく異なってきます。また,これまで報告されていない構造であることから,今後リン元素を含む機能性材料分子の合成素子(レゴでいう基本となるブロックみたいなものです)になればよいなぁと思い,研究を進めてきました。修士過程でこの春に卒業した畑中君という学生さんの頑張りによりこの成果をまとめることができました。彼は非常に頑張り屋さんで,ディスカッションで無理難題も言ったと思いますが,それに答えようとしてくれたことには本当に感謝です。
 さて,今回の研究で個人的に最も面白いと思ったところは,開発した合成素子を用いて,リン元素を含むローバンドギャップ高分子の創成に成功した点です。ローバンドギャップ高分子というのは,可視光を広い範囲に渡って吸収するが故に,見た目は黒っぽい色をしています。太陽電池材料とか近赤外発光材料などへの応用が期待できます。リンは先ほども述べましたが,様々な配位数や酸化数がとれます。これは,リン元素を含む可視光領域に吸収のある高分子を合成できれば,高分子中のリン原子のみを化学的に修飾することで,構造的・電子的な変化をもたらすことで何が起きるでしょう?今回の実験では金錯体を少量ずつ添加することで,相性の良い金錯体中心へリン原子が配位することで,バンドギャップを調整することに成功しました。これまで,電気化学的にリン原子含有高分子を合成し,それを化学修飾して光・電子特性を変化させた例はわずかですが先例がありましたが,今回のように化学合成でしっかり構造を作り込んだ例は希少であり,今後,リン含有機能性高分子のデザインにおいて新しい風を吹き込めたらなぁと勝手に期待しております。
 駄文を長々と最後まで読んでいただき,誠にありがとうございました。また今後の展開に乞うご期待ください!



2016年5月7日土曜日

研究成果が科学新聞に掲載されました.

GWもあっと言う間に過ぎ去ろうとしていますね.世間はまだ休暇中の方もおられるかと思いますが,大学は授業もあるので昨日から平常運転(といっても一日だけ)です.私事ですが,GWは研究室のBBQと家族旅行で気分がリフレッシュされ,再び研究に向かい合う準備ができました.

 ということで,本ブログは研究ブログですので,研究のお話を少し書き綴っていきたいと思います(あくまで一般の方を読者として想定としたブログですので,なるべく平易な言葉で書かせていただきます.玄人の方は,どうぞご了承ください...).

 私の研究分野は,広い意味での有機化学です.”有機化学”という言葉は,中学,高校の化学の授業でも出てくるので,ご存知の方も多いかもしれません.基本的には炭素と水素原子から成る分子(有機分子)を扱う学問です.我々の体を含め,食べ物,薬など身の回りは有機分子で溢れかえっています.大学の研究室で進められている有機化学研究は,有機分子のどのような点に興味を抱くかによって,微妙に細分化(あくまで形式の問題ですが)されているのが現状です.例えば,有機分子を”どのように作るか(有機合成化学)”,有機分子が”どのような構造をしているか(構造有機化学)”,はたまた”どのような機能を有しているか(機能有機化学)”,などです.しかし,最近の傾向としてはこれら一度細分化されていた研究領域のボーダーを越えていく(そもそもボーダーなどないはずですが)研究が増加している気がします.個人的には,まさにボーダーレスな有機化学を意識して面白い反応や機能性分子を創り出していけたらなぁという気持ちで日々研究をしています.

 さて,結局を何をしてるんだというのが伝わらなかったかもしれませんので,ここで最近論文に掲載され,本研究助成で採択された課題にも深く関連のある研究例をご紹介いたします.

 最近,有機エレクトロルミネッセンス(EL)という言葉を聞かれた方も多いのではないでしょうか?簡単に説明しますと,電気を有機物に流すと光る(エレクトロ=電気,ルミネッセンス=発光)という原理ですね.有機化合物から成る有機材料は,無機化合物から成る無機材料に比べて「軽量性・柔軟性・コスト面」において有利な点が多いことからその開発研究は世界中で盛んにおこなわれています.特に,有機EL発光材料は次世代ディスプレイや照明など多様な応用が考えられ,産業的にも注目されています.さて,その有機EL素子を構成する上で要となるのが,発光材料ですが,従来の蛍光材料(ナノ秒オーダーという短い発光寿命をもつ)を用いた場合,電気エネルギーのうち5%程度しか光として取り出せないというのが一般常識だったのですが,2012年に九州大学の安達千波矢教授らによって開発された熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)材料(マイクロ〜ミリ秒オーダーという比較的長い発光寿命をもつ)を利用すると,従来の限界値である5%を凌駕できるということが明らかにされて以来,次世代の発光材料として爆発的に世界中で研究が進められています.しかし,TADF発現機構の解明・分子設計指針の確立・低エネルギー発光(より長波長側)を示すTADF材料の開発などまだまだ解決すべき課題はたくさんあります.

 こういった背景のもと,最近私達はイギリスのダラム大学物理学科の研究者らと国際共同研究チームを組んで,化学と物理の融合研究により,これまでに報告されていない機構に基づくTADF材料の開発に成功しました(論文へのリンク).

"Dibenzo[a,j]phenazine-Cored Donor-Acceptor-Donor Compounds as Green-to-Red/NIR Thermally Activated Delayed Fluorescence Organic Light Emitters"
Przemyslaw Data*, Piotr Pander, Masato Okazaki, Youhei Takeda*, Satoshi Minakata, and Andrew P. Monkman
Angew. Chem., Int. Ed. 201655, 5739–5744 (DOI:10.1002/anie.201600113 )

本研究では,U字型に屈曲したドナー・アクセプター・ドナー型の分子構造がTADF機能の発現に重要な役割を果たしていますが,鍵となるU字型分子は2014年に私達が発見した新反応(骨格転位反応)を活用することで初めて構築可能である点で,反応開発が材料開発に繋がった好例ではないでしょうか.もう少し詳細について知りたい方は,以下の阪大のプレスリリースのリンク等をご参照いただければ幸いです.本研究結果は4/29付の科学新聞にも掲載いただきました.もちろん,本ブログ上でのお問い合わせもウェルカムです.

 こういった背景のもと,本研究助成課題では,TADFを示す分子をさらに高付加価値化しようというのが目的です.具体的には,こする,加熱する,溶媒蒸気に晒すなどの外部刺激に応答して発光色が変化するという機能を付与したいと考えています.こういった機能が付与されれば,建物の劣化具合を一目で見てわかる材料や,熱センサーなどへの応用も考えられます.こちらの研究結果については後日公開できるよう今後研究に励んでいきたい所存です.

RESOU

2016年4月20日水曜日

2016 日本国際賞(Japan Prize)授賞式に参加しました

この度は日本国際科学技術財団の2016年研究助成に採択いただき、誠にありがとうございます。審査員の先生方ならびに財団関係者の方々にこの場を借りて再度御礼申し上げます。

さっそくですが、記憶が新しいうちに、ここ二日間の出来事を簡単に綴ってみたいと思います。

昨日は助成金の贈呈式に、本日は日本国際賞の授賞式に参加させていただきました。
また、贈呈式の他に、今年度の日本国際賞受賞者である細野秀雄先生を囲んでの学術懇談会のオブザーバー、という人生で初めての経験もさせていただきました。細野先生をはじめ、著名な先生方が日本の科学のあり方を大変真剣に考えておられるということがヒシヒシと伝わってくる印象的な会でした。

授賞式には天皇皇后両陛下もご臨席されるということで、あわててタキシードを準備した次第です。実に人生で二度目のタキシード着装です。また、写真は、昨年度の研究助成採択者であり、京大のドクター時代の同期である理化学研究所の隅田有人博士と授賞式の休憩時間に撮ったものです。授賞式が豪華であったのは言うまでもありません。

今日は最初のブログということで、このあたりにしておいて、研究紹介などは後日掲載させていただこうかと思います。

こんな感じで今後も気軽に身近なところから情報発信していけたらなと考えてます。
今後ともどうぞよろしくお願いします。