外部刺激応答性光機能を兼ね備えた「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の開発

武田 洋平
(大阪大学 大学院工学研究科 准教授)

2017年8月15日火曜日

白色発光。

みなさま

相変わらず暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

最新の研究成果が論文に掲載されましたが、つかの間の夏休みでようやくブログを書く時間ができたので、以下、簡単にご紹介を。

内容としては、以前から我々が英国ダラム大学と国際共同研究で開発してきた橙〜赤色発光を示すTADF材料を、同じくダラム大学化学科のBryce教授らのチームで開発された青と緑発光を示すTADF材料をそれぞれドーパントとして発光層に用いると、発光材料としてTADF材料のみを用いた白色発光有機ELデバイスが開発できました、というものです。TADF材料を用いる利点としては、既存の蛍光材料を用いた場合よりも高い外部量子効率が見込めること、我々が開発している電荷移動型発光を示すTADF材料は幅広い発光スペクトルを示すので、可視光の広い領域をカバーして白色発光を示すには適しているということなどが挙げられます。今回の白色発光デバイスの特徴としては、ロールオフが低いという点もあります。お互いが良い材料を持ち寄ることで実現した国際共同研究と言えるでしょう。

掲載論文:Scientific Reports(オープンアクセスですので、どなたでもご覧になれます)
https://www.nature.com/articles/s41598-017-06568-3

今回はこの辺で。

2017年6月3日土曜日

Krutyn TADF Summer Schoolで講師をしました。

先日PolandはKrutynで熱活性化遅延蛍光(TADF)に関するSummer Schoolに講師として呼ばれて講義をしてきましたので、その備忘録を。

今回の出張、実は2日前まで中国で別の日中ジョイントシンポジウムに参加させていただいてたのでかなりタイトなスケジュールでした。最近は、なるべく移動中は心を無にするように心がけています。



さて、今回のKrutyn Summer School、実にWarsawからバスに揺られること3時間、森の中にある宿泊施設での合宿だったわけですが、毎年何かしらのトピックに関して1週間ほど缶詰で開催されているそうです(詳しくは、http://ikss.eu)。今回は物理屋さんが多くいる中、数少ない有機合成化学者として参加させてもらい、TADF材料を合成する上で役立つであろう合成反応の紹介から最近の我々が開発したTADF材料(http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160407_1 および http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170113_1 をご参照ください)について講演してきました。会場は物理屋さんが多いので、講演中もなんだか会場から睨まれているような気がして(自分の英語のせいかもしれません)、最近ではあまり味わったことのない微妙な緊張感を覚えました。しかし、終わってみると、「勉強になったよ」とか「非常にわかりやすかった」とか声をかけてくれて意外にも良い反響が多かったので、時間をかけて資料を作成した甲斐があったなと思いました。いい経験になりました。

本Summer Schoolの良いところは、がっつり皆で勉強するだけではなく、毎日ランチ後には2時間ほどカヤックやサイクリングを楽しむ時間が用意されており、そのようなアクティビティを通じて参加者同士がリラックスした雰囲気でコミュニケーションを取れるところでした。このシステムは非常に良いなと感じました。Summer School終了後に乗ったボートからは幸運にも綺麗な虹が見えました。


こんなに美しい場所でのSummer Schoolに呼んでいただき、主催者の方々には本当に感謝です。










2017年1月13日金曜日

論文掲載

皆様

 こんにちわ。研究成果が論文に掲載されましたので、簡単にご報告を。


 「こする」「加熱する」、などの外部刺激が加わった際に発光材料の発光色が変化する現象を「発光(性)メカノクロミズム(mechanochromic luminescence: MCL)」と呼びます(厳密には、機械的刺激に応答する場合に限って”メカノ”の接頭語をつけても良いはずですが、このような発光色変化は他の外的要因によっても観察されることから、最近では広義として、機械的刺激以外の外部刺激に応答する場合も含められることが多いようです)。MCL特性を示す材料は、圧力や温度に応じて発光色が変化することから、材料が感じている状態変化を示す化学センサーやメモリ材料としての応用が将来的には期待できます。このような材料を開発する、原理を解明するという研究は世界中で活発に研究されています。日本はこの分野をリードされている先生方が多く、当該分野においては研究が進んでいるように思います。


 さて、今回我々が論文報告した内容というのは、以前のブログでも紹介させていただきました熱活性化遅延蛍光(TADF)材料に、複数色変化するMCL特性を付与できました、というものです。

 詳しくは、論文 Chemical Science, 2017, doi: 10.1039/C6SC04863C
(オープンアクセスですので、どなたでも無料でご覧になれます)、または大阪大学プレスリリースをご参照いただければ幸いです(なるべく平易な言葉で解説したつもりですが、理解困難でしたら直接お問い合わせいただければ、と存じます)。
 ポイントとしては、コンフォメーションと呼ばれる分子の”揺らぎ”に由来する構造的変化を発光色変幻へ翻訳できた、ということになるでしょうか。また、TADF分子としての強みを活かして、有機EL発光材料としての性能も以前報告したものから損なわれていない(有機ELデバイスの外部量子効率〜17%)ことも特筆すべき点です。
 
 さて、よく”TADFとMCLを組み合わせて何が面白いの?”と聞かれますが、今の所、即答できる回答はありません。まさに我々にとっても未知の領域です、が、当然期待できることはたくさんあります。例えば、TADF特性は温度や酸素濃度に敏感ですし、MCLは圧力や温度や応答します。つまり、様々な状況(建築物や乗り物など)において使用されている材料そのもが感じる状態変化(圧力変化・酸素濃度・温度変化)を同時に可視化できるセンサーや表示デバイスへの展開が考えられます。この辺りは、今後探っていけたらな、と思っています。

 この成果は、国際科学技術財団様にご採用いただきました「外部刺激応答光機能を兼ね揃えた熱活性化遅延蛍光材料」の実現に向けて光が見えてきた、と言っても良いのではないでしょうか。これもひとえに国際科学技術財団様から研究助成のご支援があったからこそです。この場を借りて御礼申し上げます。



2017年1月4日水曜日

Krutynサマースクールで講師します。

こんにちわ。

本日は、少し早いですが講演関係の宣伝です。

この夏、ポーランドで開催されるサマースクールで講師します。
以下、簡単な情報と1st circular(パンフレットみたいなもの)になります。

会期:2017年5月21-27日
場所:ポーランド、Krutyn
対象:博士課程学生やポスドクなどの若手研究者
テーマ:State of the Art Organic-only TADF OLEDs. From Theory to Applications
(有機系の熱活性遅延蛍光材料についてのサマースクールです)

武田は有機合成的な観点(合成法や逆合成など)からみたTADF材料開発について
講師を務めます。

ご興味を持たれた方、参加登録などの詳細は、以下をご参照ください。http://tadfoled.ikss.eu/index.php






2017年1月2日月曜日

明けましておめでとうございます。

皆様

改めまして、新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

 後期に入ってから年末にかけて学会シーズンと忘年会などでドタバタしておりましたので、更新が滞っておりましたが、ちょうど正月休みで少し時間がありますので、昨年の総括や本年の目標などをつらつらと綴ってみたいと思います。

 まずは、昨年後半の出来事から。

 前回のブログhttp://blog2016takeda.japanprize.jp/2016/09/blog-post.html)にも綴らせていただきましたが、昨年9月には「やさしい科学セミナー」を実施しました。大学の他の仕事と並行しての企画・計画・開催でしたので、正直、「これ、本当にできるのか?!」という気持ちも無いことは無かったですが、学生TAさんの頑張りと、国際科学技術財団様にご尽力いただいたおかげで、参加していただいた高校生の皆さんに科学の面白さが伝わったセミナーを開催できました(と信じています)。しんどかったですが、振り返ってみると、本セミナーでの経験は大学の教育にも還元できるな、と感じることが多かったので、やはりやってよかったです

 さて、その他は学会シーズンでしたが、多くのことにトライできました。初めての高分子討論会への参加、リトアニアで開催された国際会議での招待講演、EUの研究プロジェクトのアドバイザーとしての参加、参画させていただいている新学術領域関連のシンポジウムでの発表、母校での講演などなど、盛りだくさんかつ内容が濃かったです。学会でのメインのお仕事は研究発表・討論と世間では考えられているかとは思いますが、実は、人的交流も同じくらい大きな役割を占めているのです。論文上でしか名前を知らない研究者と直に会い、研究哲学や研究の裏話を聞いて今後の研究の進め方に参考にしたり、異分野の研究者と意気投合することで共同研究にまで発展することも多々あります。研究者同士のface-to-faceの対話が如何に大切か、を身にしみて知っているからこそ、興味を持った学会・討論会にはできるだけ参加するようにしていました。

 しかし、今年は少し様子が違うようです。今までは自分で興味を持って参加を申し込むことの方が多かったのですが、今年はついに招待講演で呼んでいただける数の方が、自分で申し込む予定数よりも多くなりました!こういう時こそ、自分のことを宣伝する良いチャンスかと思いますので、今年は「攻め」のスタイルで研究に臨んでいこうと思っています。実は、今年は年男でもあるので、まさに人生の転換期になるよう、一日一日を大事にして過ごそう、と思う次第です。

 長々と駄文を書き連ねてしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。それでは引き続き本年もお付き合いよろしくお願いいたします。







2016年9月13日火曜日

やさしい科学技術セミナー

 先日、やさしい科学技術セミナーを開催させていただきましたので、簡単なご報告を。

 今回のセミナー、川西高校と宝塚北高校の生徒さん28名に大阪大学工学部へお越しいただき、座学75分+実験2.5時間を体験していただきました。
 
 タイトルは、「いろいろな刺激で光を色鮮やかに変化させる有機分子の世界 〜未来の光材料デザイナーたちへ〜」。正直格好つけすぎました。。。しかし、あくまで今回のセミナーを開催するにあたっての個人的な目標は、今後将来を担う高校生が夢を持つきっかけにしてもらうことだったので、敢えて周りの目は気にせず、このようなタイトルにさせていただきました。

 
 座学の部では、身の回りにある発光体の簡単な原理から応用例、そして今後どういった方向へ発展しうるのか、そのあたりを中心にお話させていただきました。75分というと、大学の授業1コマ(90分)近くですが、多くの生徒さんがメモなどをしっかりとり、聞き入ってくれていたのは非常に印象的でした。なかでも、今回の目玉実験の一つでもあった「サソリの青色蛍光分子を自分の手で作ろう」という話題に会場全体が食いついていただけたことは、準備した甲斐があったというものです。実は、サソリの甲殻には、ある蛍光分子が含まれており、ブラックライトで照らすと、青〜緑色に発光するのです。今回セミナーを手伝ってくれた大学院生のお兄さん達も知らなかったような、身近な科学トリビアです。そして、幸いにもこの蛍光分子、簡単に手に入る薬品を混ぜて、魔法の粉(触媒)を振りかけ、加熱するだけでできてしまうのです!しかも、その蛍光分子は、pHに応答して発光挙動(色や強度)が大きく変化するのです。有機合成化学実験と発光物質の観察を同時にできてしまうこんな美味しい題材があるものか、と最初に文献を見つけた時は感動したものです。
 
 話を戻しますと、今回参加してもらいました生徒さんの目の輝きは特別でした。引率された先生にお話を聞きましたところ、高校では当然有機合成実験などしたことないし、外部刺激で発光色が変化するようなものも扱ったこともない、とのことでしたので、当初の目的のように、有機化学や光科学に興味を抱いてもらえるきっかけになったのではないかな、と感じました。

 
 本セミナーを開催するにあたって、当初、有機合成実験を一度も経験したことのない生徒さん数十名が一度に実験することに若干不安は感じていました。しかし、安全性を第一に考慮した実験項を何度も試行錯誤練り直したことと、丁寧かつ分かり易い説明をしてくれた大学院生のTAさんのお陰で、全てのグループが無事サソリの蛍光物質の合成に成功しました。

 本セミナーでは、他にも、「擦ったり、溶媒蒸気に晒す」と発光色が変化する物質を使った観察実験も実施しております。本ブログをお読みになって、本セミナー内容にご興味を持たれた方はぜひ、youtubeで公開されています動画を視聴してみてください。

動画「いろいろな刺激で光を色鮮やかに変化させる有機分子の世界 〜未来の光材料デザイナーたちへ〜(youtube)」https://www.youtube.com/watch?v=qaCmkyreMn4&feature=youtu.be

 最後になりましたが、本セミナーを開催するにあたって、国際科学技術財団広報の小倉様には準備段階から色々とご助言賜りました。この場を借りて再度、御礼申し上げます。




2016年8月25日木曜日

環をちぎって、繋げて。

皆様こんちにわ。

いつの間にか、8月も後半に突入してしましたね。

個人的な話で恐縮ですが、お盆休みはしっかり家族サービスできた(と思っているだけかも。。。)ので、また気持ちを入れ替えて仕事に追われている日々です。

さて、少し前の話になりますが、論文が掲載されましたので、少しだけ宣伝を。

アミノ基をチオフェン環に二つ有する化合物に、超原子価ヨウ素(III)と呼ばれるヨウ素を鍵元素として含む酸化剤を作用させると、チオフェン環(これらは、ベンゼンに代表される芳香環の一種であり、通常エネルギー的に安定化を受けています)の強固な炭素ー硫黄結合、および炭素ー炭素結合が形式上切断され、自己縮合して生成したと考えられる新規なヘテロ芳香族化合物(アミノ基を有するチエノピラジン類)を与えることを見つけました。
この反応条件が使える有機化合物(基質といいいます)が大きく制限を受けてしまうのが、たまに傷ですが、チエノピラジン骨格自体は、医薬品、薄膜太陽電池の高分子材料や赤色発光材料に含まれる機能性有機分子の基本骨格を成すことから、今回の反応開発は、新たな機能性材料の探索・創出に繋がる可能性を秘めています。
実際、今回合成した化合物は、希薄溶液中ではオレンジ色に、固体状態では赤色に発光することがわかっており、それらの基礎的物性も本論文では報告しています。

マニアックな反応ですが、まだ反応機構もよくわかっていないので、パズル好きな方はぜひ、ご一読されて妙案をいただければ、と思います。

Youhei Takeda*, Satoshi Ueta, Satoshi Minakata,* Heterocycles, in press 
(doi: 10.3987/COM-16-S(S)11)
https://www.heterocycles.jp/newlibrary/payments/form/24813/PDF